「裁判を起こす」と聞いて、どんな場面を思い浮かべますか。お金を返してもらう裁判と、犯罪を裁く裁判は、同じ「裁判」でも仕組みがまるで違います。
前者が 民事裁判、後者が 刑事裁判。誰が訴えるのか、何が決まるのかが違います。
民事裁判=人や会社どうしの争い(お金・損害賠償・契約など)を解決する裁判。誰でも訴えられる。
刑事裁判=犯罪をしたかどうかを決めて、刑罰を科す裁判。訴える(起訴する)のは検察官だけ。
民事は「お金や権利をどうするか」、刑事は「罰するかどうか」を決める。目的がまったく違います。
民事と刑事、ここが違う
争いを解決する
- 訴える人:誰でも(原告)
- 訴えられる人:被告
- 決まること:お金を払うか、権利はどうか
- 和解で終わることも多い
犯罪を裁く
- 訴える人:検察官だけ
- 訴えられる人:被告人
- 決まること:有罪か無罪か、刑罰
- 和解で終わることはない
いちばん大きな違いは 「誰が訴えるか」 です。
民事は、お金を貸した人、事故の被害者、契約を破られた会社など、当事者が自分で訴えます。刑事は、被害者が自分で裁判を起こすことはできません。起訴できるのは 検察官だけ と決まっています(刑事訴訟法247条)。
「被告」と「被告人」はちがう
ニュースでよく聞く「被告」。実は民事と刑事で呼び方が違います。
| 民事裁判 | 刑事裁判 | |
|---|---|---|
| 訴える側 | 原告 | 検察官 |
| 訴えられる側 | 被告 | 被告人 |
| 弁護する人 | 代理人(弁護士) | 弁護人 |
| 裁判の結果 | 請求を認める・認めない判決、または和解 | 有罪(刑罰)か無罪 |
民事の「被告」は、ただ訴えられた人というだけ。悪いことをしたと決まっているわけではありません。お金の貸し借りでもめただけでも「被告」です。
何をどこまで証明するか
刑事裁判には 「疑わしきは被告人の利益に」 という大原則があります。裁判所の説明でも、検察官が「間違いない」と言える程度まで証明する責任を負い、証明できなければ無罪です。
民事裁判は、原告と被告がそれぞれ証拠を出し合い、裁判官がどちらの言い分がもっともらしいかを判断します(民事訴訟法247条)。刑事のような「検察官がすべて証明する」という形とは違います。
費用と弁護士
- 民事は手数料がかかる:訴える側が裁判所に手数料を払う。たとえば100万円を請求するなら、書面で12,500円、オンラインなら11,400円(郵便代込み・2026年5月から)
- 民事は弁護士なしでもできる:本人だけで訴えることができる。60万円以下なら、1回の審理で終わる少額訴訟もある
- 刑事は訴えの手数料がない:起訴するのは検察官なので、被告人が手数料を払う仕組みはない。ただし有罪になると、証人の日当などの「訴訟費用」を負担させられることがある(刑事訴訟法181条)
- 刑事は弁護人が必要な事件がある:重い罪の裁判は、弁護人がいないと開けない(刑事訴訟法289条)
同じ事件で両方が起きることも
ひとつの出来事が、民事と刑事の両方の裁判になることはよくあります。
刑事裁判で犯人が罰せられても、被害者にお金が入るわけではない。治療費や慰謝料は、別に民事で請求する必要があります
ひとつの事件から、刑事と民事の2つの手続きが生まれる
被害者にとっては「刑事で有罪になったのに、お金は自分で請求しないといけない」のが負担でした。そこで、殺人や傷害などわざと人を死傷させた罪、不同意性交等などの事件では、刑事裁判の中で損害賠償の請求も審理してもらえる「損害賠償命令」という制度があります(犯罪被害者保護法)。申立ての手数料は2,000円で、地方裁判所の刑事裁判が対象です。
裁判の数はどれくらい?
2025年に全国の裁判所が受け付けた件数を見ると、規模の違いがわかります(司法統計年報)。
| 2025年の新しく受け付けた数 | |
|---|---|
| 民事・行政事件 | 166万5,665件 |
| 刑事事件 | 92万7,559人(うち訴訟は24万5,909人) |
刑事の数の7割以上は、逮捕状や捜索令状などの手続きです。実際に裁判になるのは一部です。
どちらの裁判も、原則として公開です(憲法82条)。誰でも傍聴できます。
よくある誤解
- 「被告=犯罪者」→ ✕。民事の被告は、訴えられただけの人。お金の貸し借りでも被告になります。犯罪の裁判で訴えられた人は「被告人」です
- 「被害者が犯人を刑事裁判にかけられる」→ ✕。起訴できるのは検察官だけ。被害者ができるのは、被害届や告訴で処罰を求めることまでです
- 「刑事で有罪になれば、賠償金も自動で払われる」→ ✕。賠償は民事の話。民事で請求するか、損害賠償命令の制度を使う必要があります
- 「民事裁判は必ず判決まで行く」→ ✕。途中で話し合って和解することも多く、和解は判決と同じ効力を持ちます
まとめ
- 民事=人どうしの争い(お金・権利)、刑事=犯罪を裁く(刑罰)
- 民事は誰でも訴えられる。刑事は検察官だけが起訴できる
- 民事は「被告」、刑事は「被告人」
- 同じ事件で両方が起こりうる。刑事で罰せられても、賠償は別に請求が必要
- どちらも原則として公開
刑事事件の流れは逮捕と勾留の違い・書類送検とは、判決に不服なときの仕組みは控訴と上告の違い、裁判に関わる人たちは弁護士・検察官・裁判官の違いもあわせてどうぞ。
起訴の決まりは 刑事訴訟法(e-Gov法令検索) の247条・289条、民事の手続きは 民事訴訟法、手数料は 裁判所「手数料額早見表」、件数は 裁判所「司法統計」 で確かめられます(2026年10月23日確認)。