ニュースで「〇〇容疑者を書類送検」と聞くと、なんとなく「捕まった」「罪が決まった」ような印象を受けます。
でも実際は、逮捕もされていないし、有罪が決まったわけでもないことがほとんど。言葉の響きのわりに、中身はかなり手前の段階です。
書類送検とは、警察が容疑者を逮捕しないまま、事件の書類と証拠だけを検察官に送ること。
法律上の正式な言葉は 「送致」で、「書類送検」は条文に出てこない呼び方です。
送ったあとに、起訴(裁判にかける)か不起訴かを決めるのは検察官。書類送検の時点では、有罪かどうかはまだ何も決まっていません。
そもそも「送検」とは
警察は事件を捜査したら、原則としてすべて検察官に送る決まりになっています(刑事訴訟法246条)。これが「送致」、ニュースでいう「送検」です。
なぜ送るのかというと、裁判にかけるかどうかを決められるのは検察官だけだから(刑事訴訟法247条)。警察は捜査をする役、検察官は起訴するかを判断する役、と分かれています。役割の違いは警察官と刑事の違いや弁護士・検察官・裁判官の違いも参考になります。
送り方は2通りあります。
人ごと送る(逮捕あり)
- 容疑者を逮捕している
- 逮捕から48時間以内に送る決まり
- そのあと検察の判断にも時間制限がある
- ニュースでは「送検」
書類だけ送る(逮捕なし)
- 容疑者は普段どおり生活している
- 「在宅事件」と呼ばれる
- 法律上の厳しい時間制限はない
- ニュースでは「書類送検」
逃げたり証拠を隠したりするおそれが小さい事件では、わざわざ逮捕しません。家にいたまま呼び出されて取り調べを受け、最後に書類が検察へ送られる。これが書類送検のよくある形です。
逮捕されない人のほうが多い
意外かもしれませんが、検察に送られる人の約3分の2は逮捕されていません。
2024年に検察が処理した事件(交通事件を除く)の被疑者29万1,555人のうち、逮捕されなかった人は18万5,011人(約63.5%)。逮捕は、どちらかといえば例外のほうです。
ただし「書類送検の人は一度も逮捕されていない」とまでは言い切れません。いったん逮捕されて、すぐ釈放され、そのあと書類だけ送られる人もいます(2024年は5,809人)。
書類送検のあとの流れ
書類送検はゴールではなく、途中の一歩。有罪・無罪どころか、裁判にかけるかどうかもこのあと決まります
在宅事件(逮捕なし)の場合の、書類送検から処分までの流れ
逮捕された事件には「48時間以内に送る」「勾留は最長20日」といった細かい時間制限があります(逮捕と勾留の違い)。でも、これは身柄を拘束している場合の決まり。在宅事件にはそうした制限がないので、処分が出るまで何か月も待つこともあります。
起訴されるのは約3人に1人
2024年に検察が処理した事件全体(交通事件も含む)で見ると、こうなっています。
| 処分 | 人数(2024年) | どういうこと |
|---|---|---|
| 起訴 | 23万9,070人 | 裁判にかける(略式の罰金も含む) |
| うち略式命令請求 | 15万8,783人 | 法廷を開かず、書類の審理で罰金 |
| 不起訴 | 49万4,018人 | 裁判にかけない |
| うち起訴猶予 | 42万9,432人 | 罪は明らかだが、今回は見送る |
起訴率は 32.6%。おおよそ3人に1人です。
ただ、これは逮捕された事件も含めた全体の数字です。「書類送検だけ」に絞った起訴率は、公式の統計にありません。「書類送検ならほぼ不起訴」とネットで見かけることがありますが、裏付けのある数字ではないので注意してください。
「罰金だけなら前科にならない」は誤り
起訴の3分の2は、法廷を開かずに罰金を決める「略式命令」です。手続きは簡単でも、これも有罪の裁判なので、確定すれば前科になります。前科にならないのは、不起訴で終わった場合です。前科と前歴の違いは前科と前歴の違いで整理しています。
不起訴にも種類がある
不起訴と一口に言っても、理由はいろいろです。主なものはこの3つ。
- 嫌疑なし:人違いが明らかなど、そもそも疑いが晴れた
- 嫌疑不十分:疑いはあるが、有罪にできるだけの証拠がない
- 起訴猶予:罪を犯したことは明らかだが、反省や被害の回復などを考えて今回は裁判にかけない
いちばん多いのは起訴猶予です。交通事件を除いた2024年の不起訴のうち68.2%を占めます。つまり不起訴でも「無実だった」とは限りません。
不起訴になったかどうかは、自動で知らされるとは限りません。本人が検察に請求すれば、不起訴にしたことを告げてもらえます(刑事訴訟法259条)。
ニュースの言葉を読み解く
| ニュースの言い方 | 意味 |
|---|---|
| 「〇〇容疑者を逮捕」 | 身柄を拘束した。ここから最長でおよそ23日、身柄の拘束が続きうる |
| 「〇〇容疑者を書類送検」 | 逮捕しないまま、事件を検察に送った |
| 「〇〇社を書類送検」 | 会社(法人)を送った。会社は逮捕できないので、いつも書類送検になる |
| 「〇〇被告」 | 起訴されて、裁判にかけられている人 |
「容疑者」はニュースでの呼び方で、法律上の言葉は 「被疑者」 です。起訴されると「被告人」になります(ニュースでは「被告」)。
「〇〇社を書類送検」は、長時間労働などで労働基準法に違反した会社でよく見かけます。労働基準法違反は、労働基準監督官が警察と同じように捜査して検察に送れる決まりです(労働基準法102条)。
よくある誤解
- 「書類送検された=犯人と決まった」→ ✕。検察に事件を送っただけ。起訴されて裁判で有罪にならない限り、有罪ではありません
- 「書類送検されたら必ず前科がつく」→ ✕。不起訴なら前科にはなりません。ただし略式の罰金でも起訴されて確定すれば前科です
- 「書類送検は逮捕より軽い罪」→ △。逮捕するかどうかは、罪の重さより「逃げる・証拠を隠すおそれがあるか」で決まる部分が大きい。重い罪でも書類送検になることはあります
- 「警察が会社に連絡する」→ △。勤務先に知らせる、と決めた法律や規則は見当たりません。ただし報道されれば知られることはあります
とても軽い事件は送られないこともある
警察が捜査した事件は原則すべて検察に送りますが、例外があります。ごく軽い事件で、検察があらかじめ「送らなくていい」と指定したものは、警察の判断で終わらせられます。これを 微罪処分 といいます。
微罪処分では、警察が厳重に注意したり、家族や雇い主を呼んで指導を頼んだりして終わります。2024年は4万7,982人が微罪処分になりました。
まとめ
- 書類送検=逮捕しないまま、事件の書類と証拠を検察官に送ること(正式には「送致」)
- 検察に送られる人の約3分の2は逮捕されていない
- 送ったあと、起訴か不起訴かを決めるのは検察官。書類送検の段階では有罪は決まっていない
- 2024年の起訴率は32.6%。不起訴の多くは「起訴猶予」
- 不起訴なら前科にはならない。略式の罰金は前科になる
被害者側からの手続きは被害届と告訴の違い、裁判の種類は民事裁判と刑事裁判の違い。身柄を拘束された場合の流れは逮捕と勾留の違い、判決後の話は執行猶予、市民が起訴に関わる仕組みは検察審査会へ。
送致の決まりは 刑事訴訟法(e-Gov法令検索) の203条・246条・247条、処分の人数は 法務省「令和7年版犯罪白書」、手続きの流れは 検察庁「刑事事件の手続について」 で確かめられます(2026年10月23日確認)。